キワムのコラム 第71回

人生のタッキング中


「タック」と声をかけてラットを回す、波を切り裂きながらバウが風上に向かう、ジブセイルが裏風をうけてバタバタと騒々しい音をたてる。クルー達はそれぞれの持ち場で働く。ジブセイルが返り風下側のウィンチをクルーが全力で巻く。ジブシートをさばく3人のクルーの他は舟のバランスを取るために体重を移動する。メインセイルのリーダの位置も決まり新しい風をパーンとセイルいっぱいに受けて次のタックを走り始める。一旦速度を落とした舟が波をかき分け風上に走り始める。


2004年12月プーケット・キングズカップに挑戦した時の風上行

 人生のタッキングを今始めている。17年半同じレグを走ってきたが、現在の職場を退職して、来年3月から小児科を開業する、ふとしたきっかけから巡り会った仲間達との出発である。第18回のコラムで書いた、「人生でも理由のないタックはするな」という先輩の言葉を受け、今回のタックは自分でもいろいろ考えた末のタックである。タックして選んだ海面が良い風と良い波に恵まれていると思えた。自分のエネルギーを燃焼して突き進む道と信じられた方向転換だ。

 結果がどうなるかは分からないがエネルギーを発散させるにたる世界が作れる様に感じている。17年半という私の今までの1/3を共に過ごしたレグも悪くない世界だった。前半から中盤までは良い風、良い波に恵まれていた。最後にどうしてもスピードに乗れない、エネルギーが停滞するようになってきた。このまま同じレグで辛抱する理由が見つからなくなった。自分の決定に責任が持てる「タック」と感じている。

 17年半の年月かかわってきた小児科の患者さん達、生まれたばかりの赤ん坊も高校3年生。診ていた子どもが母親となりその子どもをつれてくる地域の小児科医らしい環境もできあがった。そんな中で診療情報の開示を含めて電子カルテの益々の発展などに残りの人生をもっと燃焼させていきたい。

 2006年3月開業をめざしている「鎌倉アーバンクリニック」。期待していただきたい。

 さてさてどうなるやらお楽しみ、54才での風上に向けての方向転換、タックは実行されはじめた。

2005年12月22日

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