キワムのコラム 第55回

初島ダブルハンドレース参戦記

2004年6月26日、第16回初島ダブルハンドレースに参加

 6月26日4時半に逗子マリーナカトレア館の4階で目覚めると、前日までの雨は止み曇り空に朝陽がこぼれて いる。窓から見える海は昨日からの南の風がまだしっかり残り、白波が沢山見える、10メータ以上は吹いていそうだ。 ここまで吹いていると気が重い。

 5時15分くらいにクルーの服部と逗子マリーナのヨットクラブで集合。この頃になると、風が少し落ちる時もあり 気が楽になってくる。バースでクルージング用のジブからレース用のジブに交換。 (出場前のカラ元気の私)他のレース出場艇も続々ハーバーを 後にするので、それを我々も追いかけるが、 結構な波。スタート地点もフィニシュ時の安全を考え、網から離してある ので、かなり遠い。スタート15分前にやっと本部船のティブロンにチェックイン報告。メインセイルを上げ、リミット マークをGPSにプロットにいくともうスタート5分前ほど、そこでクラブハウスに置いてくるのを忘れた逗子マリーナの 部屋のカギを会場でクラブボートに渡す。するともうスタート間近になっている。ジャイブしてスタートラインに もどるとなかなかのタイミング、私たちの前方には45隻中、2隻しかいない。レース海面についたのが遅かったのが 幸いして我々としては 絶妙なスタート とあいなりました。

 一番のライバルの同型艇、 葉山のクレルドリューン はスタートの時は我々の後ろの上側からスタートしていたが こちらがギリギリ登るので我々の真後ろになり、沖へタックしていく。

 しかし、風はキツイ、ブローが来るとしばらく10メータ以上の風が持続する。ワンポンリーフを入れようかと 思いながらも、風の息継ぎもあるのでジブをファーリングしてしのぐ、もっとこまめに動かなきゃいけないよね。 でもまあ他の舟より登り角度は稼いでいるのポジションはそう悪くない。クレルドリューンは上側で同じタックで 前を走っている。悔しい。

 時計をみるとまだ25分しかたっていない先は長い。リーフしていない我々はウェザーがきつく、舵もかなり 重い。かなりの筋トレだなぁこれは。ヒール角度もけっこうなものになるので、服部君に流しのコックを閉めてもらう。 舟の傾きがひどいと流しが 水面下になり海水が逆流してくることがあるためだ。ここで、もうちょっと気を使っていれば、先に訪れる問題を 回避できたのに。

大磯の山が見える

 スタート1時間半くらいして、風が下に振れる。何杯かがタックして 沖にむかう。この日はじめて少し風が落ちた時だった。スタートして1時間半のポートタックでの走りで スタートラインと初島を結ぶ線の北川にずれて走っている。この下側への風の振れはプロパーコースからもっと 外れることになるので、我々もタックして沖に向かう事にする。

 昨日からの南西風がかなり強かったので、波が風以上に高い。沖に向かうスターボータックのレグは波が 真正面からに近いのでたたかれて止まってしまう。他の多くの舟はこの波を嫌ったのかポートタックのままで沖へすすむ。 ライバルのクレルドリューンも同じタックで我々の前を沖に向かっている。差はそれほど広がっていない。 また、風が上がってきた。

 しばらく走って、舟の中を見た服部君、「スゲー、海水がたっぷり中に溜まっている!」がーん!

 そうか、ポート側のトイレにある流しのコック、完全じゃあなかったのを思い出した。ひどくスターボーで ヒールすると流しのなかがぴちゃぴちゃ逆流していたのを、私も服部君も以前一緒に確認したことがあったのに。 まさか、こんなに逆流するとは。認識が甘かった。溜まった海水の量は、風呂桶3杯分はあるだろうか。ポート側 のクッションやチャートテーブル脇の格納場所などすべてヒールすると海水につかってしまう。一瞬ここでリタイア すべきか考えしまった。ビルジポンプはヒールがキツイので役にたたない。ヒールすると普段はそこまで海面が こないコーミングのすぐしたまでジャブジャブする。ヒールしてくると、中の海水も下側に移動するので舟が ひっくり返るのではという恐怖もある。

 結局こういう時は人力がものを言う。服部君がバケツで海水をくみあげコンパニオンウェイから外にかい出す。 揺れる舟の中オイルの混じったビルジ、バケツでのくみ出しの重労働。船酔いする典型パターン。しばらく すると、私の目の前をビニール袋に入ったドロドロのものが中から投げ出されたのでした。30分位服部君は中で ビルジと格闘、その間、ヒールしすぎないように登りすぎにしてコクピット一人で走っていると、2隻ほどの 沖だしする舟に抜かされていく、この日は視界もよく、真鶴半島がもう見えている。

 中からはい出てきた服部君は、汗びっしょり、顔色真っ青、バケツ100杯ちかくくみ出したのだろうけど、 まだ舟の中はバシャバシャでいろんなものが浮いている。服部君「3分休憩させて」でコクピットにバタンと 横になる。5分じゃ回復する程度の船酔いじゃない感じ。それから15分くらい、身動きとれない服部君、 ご苦労様。少し顔色も出てきたのでタックする。正面に初島がうっすらと見える。風は最初の勢いからすると 少しずつではあるが落ちてきている。ときおり、クーラーの室外機から出る風のような暑い風が吹いてくる。 伊豆半島を越えた風がフェーン現象でも起こしているのだろうか。

 服部君、落ち着いたところで再度のアカ汲み。15分くらい頑張ってまた真っ青になって出てきてダウン。 「さっきよりキツイ!」喉はカラカラ、ペットボトルの水を一口飲んで、コクピットの中でマグロ状態。 先ほどよりヒールした時の安心感が増してきた。コーミングの所までオーバーヒールで海水がこなくなったし 舵をにぎっていても安心感が増してくる。なんとかリタイアしないでいけそうだ。 (バケツ300杯ほど汲み出した後のキャビンそれでもまだたっぷりビルジが 残っている。生ビールの樽と二酸化炭素ボンベも写っている。)

 そのうち、陸よりに走っていた集団の所でがくっと風が落ち始めたようだ。こちらはまだヒールして登って いるのに、風下集団はパタパタしだしている。よーし、挽回だ! 15分ほど走っているとこちらも風がなく なってきた。波にあおられてタックしてしまったのをいいことにもう一回沖にだす。5分くらいでまた良い風 がきて沖に1マイルほど走りタック、我々よりまだ沖に向かって走っている舟もある。我々はこれから 初島回るまでノータックで突っ込むことになった。1時までには回れるのではないかなと思えるほど。 しかし、12時頃だというのに、何か夕方を思わせるような光、それに先ほどから暑い風と涼しい風が交互に やってくる。初島にちかずくと、ジュリアンがスピン上げて逗子にもどっていく、速いねえ。それに 引き続いてEBB TIDE、スピンあげるのにちょっと手間取っていたけど、ジュリアンを追いかける。

 我々の回りはと言えば「第一花丸」や「forte」などの私たちよりずっとレーティングの高い舟たちもいる 「第一花丸」との最初のミートは我々の方が前を走っていた。次のミートでは花丸が前だったが、その後を 追って我々もタック。初島までもう少し。それでも例年とは違いオーバーヒールで切り上がるほどの風が 吹いている。この調子だったら1時前に回れると思っていた。突然風が落ち始める。第一花丸はなんとか走って 初島を回航していく、その差100メートルほど、ああ、ビタッと風がなくなった。 (我々を置いていった花丸を初島の右手にみえる) 後ろから19杯のヨットが どんどんやってくる。私達が岸より止まっているのをみて、沖側を通過するがそれでもみな止まってまるで 20杯で再スタートといってもいい状態。私たちは、どんどん潮で岸に寄せられていく、舵も効かない程舟の 行き足がない。けっきょく、島から遠いほうから抜け出して走りだし、どんどん遅れる。ついに19隻全部に 抜かれてしまった。1時32分に初島灯台を真北にみて、それからもしばらくスピンを上げるが風をつかめぬ まま。やっと走り出したが、19隻の集団の後ろからきたmorning starにも追いつかれる。

 100メータしか差がなかった第一花丸はもう1時間も先行されちゃってる。なんど初島回っても同じような ことが起こる。本当に我々は学習能力がないんだよなぁ。多少風がよくたって、大回りしたほうが良い結果 になるのにねぇ。ここで、ほぼ戦意喪失の感あり。「服部君、生ビール飲もうよ」と提案、服部君はちょって 面倒くさそう、そうだよね。あれから2回アカ汲みしたとはいえまだ舟のなかばベトベト、ビチャビジャ。 「本気で飲みたい?」と聞くから、「本気」と答える。ビールサーバのセットいやいやしながら、冷えた ビールを2杯もって出てくるが、アカ汲みのつかれで足下ふらふら、ビールをバシャとこぼすが、拭く気も おこらぬ、だって、中にたまったアカより、ビールのほうがよっぽど綺麗だもの。ここで飲んだビール、 久々に本当に美味しいビールだった。喉かわきもあったけど、絶品のうまさだった。

 この後も、風が大きくシフトしながらもまあまあの風が続く。 ポートでスピンを張って走っていくと 70度から120度までコースが振れる。そのうちに途中で抜いたヒゲジイののるセレナード2がスピントラブルで スピンをおろし観音開きで走っているのが高さで我々より勝っている。スピンジャイブして岸に突っ込むが 風が振れると340度までコースをもっていかれる。セレナード2にも先に行かれる。風も少しシフトして なんとか江ノ島をスターボードタックでも向けるようになったので、真ラン近くで江ノ島に向かう。

 そうそう、書き忘れたが、我々の舟のジブは電動ファーラがついているのだけど、今回の浸水で電動ファーラの リレーが水没で全然動かなくなった。初島でスピンをたたむ時は150回ウィンチハンドルでクランクしてやっと 巻き取った。

 フィニッシュ手前でジブが必要になってもすぐには使えないので、江ノ島近く残り3マイルくらいでスピンを おろし、ジブを150回のクランクをして出し、観音開きにしてゴールを直接狙う。それでも5ノットくらいの スピードは出る。フィニッシュ前から反省会、まあ、我々学習能力なく反省してもまた同じ失敗をくり返すかも 知れぬ。しかし、このレースは面白い、小さなアドベンチャーツアーだ。また来年出ることを誓ってしまう。 (船上反省会中の 服部君

 18時42分、11時間と42分走って フィニッシュラインを切る。明るいうちに帰れてよかった、結果は着順なんと 39位。結果はさんざんであったが達成感のある1日だった。

 翌日のパーティー、参加者なんと約130人、90人の乗員とおつれの人々。お疲れのなか皆さん良く参加して下さいました。話を聞けば みなさんそれぞれドラマがある。二人だけで走りきるからこそ味わえる満足感を皆さん手にしている。勝者は 勿論うれしそうだが、敗者やリタイヤした人もみんなそれなりの満足と反省をもって来年もまた挑戦しようと いう気になっているようだ。

 パーティーから帰られる 参加者をお送り しながらこのレースは本当にいいレースだと思ってします。 規格運営する我々逗子マリーナヨットクラブにとっても幸せなひとときと言っていいかもしれない。

2004年6月28日

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