キワムのコラム 第52回

人気者の夢がさめ、普通の人生に

元気な癌患者の鬱、人気者の夢がさめ

 梅田先生からお聞きしていた、「癌患者に鬱の時が来る」ということ、少し分かってきたような気がする。

 とにかく癌だと分かった時、それを周囲の人たちが知ったショックってあまり日常的な物ではないですよね。 勿論、本人もショックなのだけどなんとか前向きに頑張ろうと普通の人たちは思うわけで、入院、手術、退院と いう流れが進んで行く。順調な回復を見せる人は、周囲からもよく頑張っている、驚いた、そんなに無理しなくても、 などなど、いろいろな驚きをまわりの人にも振りまくことになる。そうすると当人にはまるで人気者のように まわりから色々な声がかかる。「そんなに早く仕事してだいじょぶなの?」、「そんなに沢山食べたり、飲んだり して大丈夫なの?」などなど。

 でもこれも、1回2回同じことを見ているとまわりの人も、それが当たり前だと思えてくる。そうなれば いちいち、客席から舞台に声がかかったりしないもの。人気者になったような気がして、気持ちが高揚して いた当の本人は「あれっぇ??」って気がして来るんじゃないだろうか。

 自分では頑張って前向きに楽しくと思って毎日やっていても、やはり、癌勃発前の状態には戻っていない 仕事もこなしているつもりでも、それ以前の時と比較すると以前はなかった癌がらみのことが頭の中を 何パーセントか占めている。前のペースにもどそう、それ以上にしようとするのだけど、人気者の気持ちを 味わったときのような興奮する感じがないのがどうにも味気ない。普通になればなるほど、なにか空虚な 感覚を味わう、自分の気持ちを充実させるには以前と同じではダメだ。以前以上に心を満たすものを 見つけなければ。そんな葛藤がいわゆる鬱という感じになるんじゃなかろうか。

 さあ、もう癌だというだけでは高揚しないんだぞ、もっとヤリガイのある物を見つけないと。そう、 それを見つけられた人が次のパワーをさずかり、それを見つけられないと、人気者だった時のこと を回想するだけになってしまう。まわりの人も同じ話しを何度も聞きたくはないのだ。

 さあ!私はどうなるのだ。

2004年5月24日

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